特に

面白いことも浮かばないしネタになるようなこともない。と思ったけどこの間あうるすぽっとで『三人姉妹』を観たんだった。

 チェーホフは初めて観た。もっとベタベタして気持ち悪い感じの物語(小川洋子みたいな感じ)かと思っていたが想像以上に世相を強く反映しているというか普通の芝居だった。
ところどころ、理解に困る演出があったのだが意図が読み取れないだけなのだろう。演出意図はあるはず。次女夫婦の衣装が共に黒なのは冷え切った夫婦関係の表現なのかな、という印象。
どうも「三姉妹」と言えば私個人としては今年頭に観たケラ作品の(私が観たのは蜷川演出だが)『祈りと怪物』のイメージがあって、『三人姉妹』も最後は石になってしまうのかな、とか長男とナターシャの子供達は幻想か?とか思ってしまったがそういう訳でもなかったようだ。無駄な先行知識は時として観劇の邪魔になる…
元の戯曲を読んだことがないので何とも言えないが、とてもあっさりした演出なのではないかと思う。役者の芝居もさっぱりしていて、悪く言えばあまり印象に残らない。だからか、全体的にセリフも物語も少し流れてしまっていた。そこが少し残念。

夢の遊眠社竹下明子さんはあと20年くらい早く見たかった、と思う。というかやはりあの声は野田戯曲のセリフを美しく発するための声だ。だから池袋駅の反対側の劇場にぜひ出て欲しいと思ってしまった。まあ無理な話である。『野獣降臨』(なんで一発変換できるんだ!と思ったら辞書登録していた)のラストシーン、「そしてここが、君のために流した琥珀色したエーテルの運河だ」を生で聴いてみたかった。もっと無理な話である。それにしても、夢の遊眠社のめいん役者さんたちは野田芝居に特化していればしていたほど今殆ど表舞台に出てこない印象である。野田作品は、というか遊眠社の作品はそれだけ特殊なのか…うぬぬ。
とまあ殆ど『三人姉妹』の関係ない話になってしまった。
そういえば『半神』の映像を最初に観たときの衝撃から1年が経とうとしている。時が経つのは早い。

ヴェニスの商人を観たよ

タイトルの通り、彩の国シェイクスピアシリーズ『ヴェニスの商人』を観た。といってもだいぶ前のことである。

大きな舞台転換はなし。視覚的なカタルシスを主とする蜷川演出にしては珍しい。7月に観た『盲導犬』は殆ど舞台転換なしと思わせておいて最後の最後でどどーんと装置が動くというある意味すごい演出だったのだが。今回は役者の力量に任せた芝居であるように思われた。
ではその役者はどうだったか。

シャイロック市川猿之助さんはまあ役柄もあるだろうが少し浮いている印象であった。というより彼が登場すると客席から拍手が起こるのは、歌舞伎役者とはいえ台詞が聞こえなくなる原因となるからやめて欲しい。観客のせいである。キリスト教の中のユダヤ人、というシャイロックの特殊性とストレートプレイ役者の中の歌舞伎役者という特殊性とを重ね合わせたであろう演出意図は読み取れるが、いかんせん台詞が聞き取りづらいところがあったのは残念。

ポーシャの中村倫也さんが出色だった。色気という意味も含め。この作品はオールメールだから女役も男性が演じるのだが、幕が開く前まで、オールメール作品を見たことのない私は少し抵抗があった。しかしその抵抗を一気に吹き飛ばすほどの女性っぷりと男装の時の完全たる男ではない、あくまでも男装である立ち振る舞いは素晴らしい。何よりとてもチャーミングで愛されるポーシャである。台詞回しは若手随一なのではというほど巧みで聞き取りやすい。いやーいいっすなあ。

高橋克実さんや横田栄司さんといった他のメインキャストも良かった。ただ一幕でどれが高橋さんなのか分かっていなかった私がいた。

学校の講義で劇団四季版のヴェニスの商人のワンシーンを観たのだが(裁判のシーン)、どちらも割とオーソドックスなユダヤ人差別への批判を表に出した演出であった。というか劇団四季版のほうはポーシャの坂本里咲さんが神々しすぎて他を見ていなかった。里咲さん、おばはんだけど未だに美女と野獣のベルは脚上がるし美人だし最高だな。
話は逸れたが、この作品はシェイクスピア作品の中で喜劇に相当する。まあ確かに人は死なないしマクベスハムレットのようなドロドロしいシーンもないのだけど、やはりこれを喜劇に分類するのはキリスト教の感覚だなあと思う。この作品の差別意識やハッピーエンドは現代日本人の私には理解しづらい部分がある。
ところでラストの演出は必要だったか?

とまあ、また纏まらない観劇記録。
次は今月末くらいにあうるすぽっと『三人姉妹』を観る予定。チェーホフ作品は初。元夢の遊眠社竹下明子さんの声を生で聴きたくて、(金銭的な関係で)他の観劇を諦めてまでチケットを取った。
来月にマームとジプシーの新作も観る予定。藤田演出は観たことがあるけれどマーム本公演は初なので楽しみ。
来年頭の蜷川演出『冬眠する熊に〜』は観たいのだが例のごとくコクーンの立ち見になりそうなので要検討。勝村政信さんは見たい。

赤い靴なんて観たことも聞いたこともない

こんにちは。ひくこです。

すごく久しぶりに劇団四季「コーラスライン」を観た。
シンプルな衣装、舞台装置で休憩なしの2時間半は正直観る人を選ぶかもしれないが私はとても好きな作品。
ブロードウェイのダンサーのオーディションを描いた作品で、まあだからアメリカ色が強いもので日本人がやると???という感じは否めない。しかしそれを補って余りあるだけの魅力のある作品だと思う。
劇中のナンバー、思春期の性や家族関係の悩みを赤裸々に描いたMontageはいつ観てもナンバーの持つエネルギーに圧倒される。単にカラオケが大音量だからという訳ではないだろう。
やり場のない怒りや悲しみ、戸惑いがいい大人になったキャストの歌ダンス台詞によって爆発し、劇場全体を圧巻する。特に「全て不安ばかり 子供か大人か」というところはカタルシスすら覚える。最高のナンバーだ(完全に私の贔屓目なのだろうが)。
バックステージものだからこそ(?)のちょっとくさい綺麗事なんかもあったりするけど、愛した日々に悔いはない(What I Did for Love)はいつ聴いても沁みるものがある(原詞のほうが遥かに良いのは百も承知だが)。夢を諦めなければならない時、私もやってきたことに悔いはないと言えるだろうか。そんなこと。
キャストはまあ前回公演の新人投入してみました!祭りに比べたら格段に良い。しかし何人かどうにもいただけない台詞回しの方がいらっしゃった。誰とは言わないが。
先月『夢から醒めた夢』で何ともシニカルな夢の配達人を演じていた道口瑞之さんは今回は捻くれ物のボビー。捻くれ者というより、抱え込んだ闇をはぐらかすために道化に徹してるようだと道口ボビーで初めて思った(陽気なキチガイの丹下さんボビー、カラッとした変人の竹内さんボビーも嫌いじゃあないが。特に丹下ボビーはまた観たいと思っている)。しかしこの人は本当に上手い。ダンスは「!?!?」だったりするところもあるのだが(しかしキレッキレ)、どうしてもダンサーの多くなってしまうキャストの中で1人、ズルいくらいの歌声と音楽的ですらある台詞回しとで客席をあっと言わせていた。私だけかもしれない。いやそんなことはない。まあただの贔屓目である。そして表情がよく動く。よく動くなんてもんじゃない、あり得ない動きをする。最高。この調子で50歳くらいまでライン上のメンバーとして活躍して、その後はザック演ってくれないかな、というのはファンの欲目というもの。在団していれば演るかな。
坂田さんのキャシーはまあ女性トップダンサーのだけはある。文句なしの踊りっぷりであった。歌も前回よりずっと声が出ていた。声は?であるけど声量はある人だ。
意外と良かったのが谷口ディアナ。あんまり声の出る人ではない印象だったのだが、NothingやWhat I Did for Loveは高音も地声で張っていて、芝居も鼻につく優等生感がないのが良かったと思う。
あとは増本シーラ、高野コニー、相原ジュディ、山本マークなんかが目立って良かった。田中さんは前任の田邊さんの怪我(?)で急遽ポールに入っていた。2年近くのブランクがあったからか、独白では少し詰まったり天の声が入ったりはしたが、急遽にしてはよく取り戻せていた。上からでごめんなさい。前夜に一睡もしていなかったけれどポールのシーン、眠くならなかった(寧ろヒヤヒヤしていた)。
鳥原さんのヴァルの芝居は好きだが、歌は地声でもっと頑張って欲しいところ。
今回は声の出ている人が多かった。ただ余裕を持って演じすぎているかもしれない。もっと逼迫してなんとか仕事を得ようとするダンサーの苦しみが出てもいいだろう。その点、キャシーは素晴らしく良い。

とまあこれだけ好きな演目で好きなキャストが揃っていると語り倒してしまうのでこの辺りにして、同じ記事で書こうと思っていた彩の国シェイクスピアヴェニスの商人』はまた次回に譲ろうと思う。
Twitterでフォローしている人には何のこっちゃよう分からん内容になっているのはご容赦願いたい。

夢から醒めないほうがいい

劇団四季『夢から醒めた夢』を観た。
劇団四季のオリジナルミュージカルの中でも特に好きで、数えてみたら8回目の観劇らしい。映像でも何度か観ているからトータルすると20回くらい観ているかもしれない。

演出だけ、あるいは物語だけ見たらこの作品はそれほど質の高いものではないだろう。しかしこの作品がただの子供向けミュージカルに留まらず、幅広い世代から支持を集めるのは不思議な中毒性故ではないかと思う。
何度も観ていると一幕中盤、遊園地のメリーゴーランドのところ「ここーでなら生まれ変われるー」で涙が出るように訓練されてくるのだ。分かっているのに完全にトランス状態に近いところまで行く。ノスタルジアとファンタジーとリアリティが入り混じってどうしようもない中毒性を発揮している。
ただ、今の私にはこの作品はつらすぎたかもしれない。底抜けの明るさではない、どこか闇を孕んだ世界観が至福でありまたつらくもある。
とまあまとまりのないことをグダグダと。
夢の配達人役の道口瑞之さんはやはり良い。この人は何やっても上手いっていうのが分かってるから変に心配しなくていいし何より声がいい。主役を張るような人ではないけれど、中間管理職的立場で舞台を引き締めている印象。

また観たいけれど絶賛火の車なので今回はもう無理か。

最高の夏

しばらくバイトの休みをもらって観劇と旅行を満喫した。

三軒茶屋で深津絵里主演の『春琴』を観、名古屋であいちトリエンナーレ参加作品ままごと『日本の大人』を観劇。

春琴は密やかでストイックな演出と出演者の素晴らしさでマイベストオブイヤー暫定1位に。去年野田地図『エッグ』を観たときの衝撃ほどではないが、創作意欲を掻き立てる素晴らしい作品だった。再演が重ねられるのも納得(今回がラストということで、観られて本当に良かった)。

ままごとは去年からずっと観ているが、今まで観たアンチドラマ的な作品ではなく、かっちりしたストーリーがあって且つ大人も子供も楽しめる文字通りの意欲作。小劇場系の演劇に有りがちな、役者の個性を殺して演出重視で演るのを取っ払って、役者の強みと個性を全面に押し出しているのが印象的だった。劇作家・演出家としての柴幸男の引き出しが今後更に増えることに期待。

その後大阪へ行って小学校時代の友人に会った。
私が大学生になれば彼女も女子大生になるわけである。ファッションは今時の女子大生らしくしているのに、喋っている内容が昔と変わらないのが面白い(そりゃそうだ同じ人だもの)。
お互いの進学や留学の話もしながら、思い出話で盛り上がったり。

実家に帰って来て、今日は中学の友人に会った。
都内の大学へ行っているだけあってこれまた女子大生らしい格好をしていて、何だか私だけ取り残されているような気持ちになる。
ユーミンの『ハルジョオン・ヒメジョオン』という曲の歌詞に「私だけが変わり みんなそのまま」というフレーズがあるが、まさにその逆だなあと少し悲しくなった。変わりたいのかと言われれば?なのだが。

明日は久しぶりに劇団四季『夢から醒めた夢』を観て、一人暮らしの部屋にもどる予定。予定は未定。