ヴェニスの商人を観たよ

タイトルの通り、彩の国シェイクスピアシリーズ『ヴェニスの商人』を観た。といってもだいぶ前のことである。

大きな舞台転換はなし。視覚的なカタルシスを主とする蜷川演出にしては珍しい。7月に観た『盲導犬』は殆ど舞台転換なしと思わせておいて最後の最後でどどーんと装置が動くというある意味すごい演出だったのだが。今回は役者の力量に任せた芝居であるように思われた。
ではその役者はどうだったか。

シャイロック市川猿之助さんはまあ役柄もあるだろうが少し浮いている印象であった。というより彼が登場すると客席から拍手が起こるのは、歌舞伎役者とはいえ台詞が聞こえなくなる原因となるからやめて欲しい。観客のせいである。キリスト教の中のユダヤ人、というシャイロックの特殊性とストレートプレイ役者の中の歌舞伎役者という特殊性とを重ね合わせたであろう演出意図は読み取れるが、いかんせん台詞が聞き取りづらいところがあったのは残念。

ポーシャの中村倫也さんが出色だった。色気という意味も含め。この作品はオールメールだから女役も男性が演じるのだが、幕が開く前まで、オールメール作品を見たことのない私は少し抵抗があった。しかしその抵抗を一気に吹き飛ばすほどの女性っぷりと男装の時の完全たる男ではない、あくまでも男装である立ち振る舞いは素晴らしい。何よりとてもチャーミングで愛されるポーシャである。台詞回しは若手随一なのではというほど巧みで聞き取りやすい。いやーいいっすなあ。

高橋克実さんや横田栄司さんといった他のメインキャストも良かった。ただ一幕でどれが高橋さんなのか分かっていなかった私がいた。

学校の講義で劇団四季版のヴェニスの商人のワンシーンを観たのだが(裁判のシーン)、どちらも割とオーソドックスなユダヤ人差別への批判を表に出した演出であった。というか劇団四季版のほうはポーシャの坂本里咲さんが神々しすぎて他を見ていなかった。里咲さん、おばはんだけど未だに美女と野獣のベルは脚上がるし美人だし最高だな。
話は逸れたが、この作品はシェイクスピア作品の中で喜劇に相当する。まあ確かに人は死なないしマクベスハムレットのようなドロドロしいシーンもないのだけど、やはりこれを喜劇に分類するのはキリスト教の感覚だなあと思う。この作品の差別意識やハッピーエンドは現代日本人の私には理解しづらい部分がある。
ところでラストの演出は必要だったか?

とまあ、また纏まらない観劇記録。
次は今月末くらいにあうるすぽっと『三人姉妹』を観る予定。チェーホフ作品は初。元夢の遊眠社竹下明子さんの声を生で聴きたくて、(金銭的な関係で)他の観劇を諦めてまでチケットを取った。
来月にマームとジプシーの新作も観る予定。藤田演出は観たことがあるけれどマーム本公演は初なので楽しみ。
来年頭の蜷川演出『冬眠する熊に〜』は観たいのだが例のごとくコクーンの立ち見になりそうなので要検討。勝村政信さんは見たい。